ロボットを用いた腎がんの手術平川和志 恵佑会札幌病院院長

平川和志 恵佑会札幌病院院長

 

前立腺がんの手術で良好な成績

当院では2012年3月から手術用のロボット「ダ・ヴィンチ S(daVinci S)」を導入し、前立腺がんに対してこのロボットを用いた前立腺の摘出手術(腹腔鏡下前立腺全摘除術)を開始しました。2015年4月までに339例の手術を行い、良好な成績をおさめています。

 

ロボットを用いた手術は、泌尿器科では前立腺のほかにも、腎がんの手術(腎部分切除術)や膀胱がんの手術(膀胱全摘除術)に有効とされています。どちらも今のところ保険適用になっていませんが、海外では有用であることが広く認められており、これまでに多数の手術が行われています。

 

ロボット操作の経験と技術の習熟で腎がん手術にも期待

今回、当院では院内の倫理審査委員会によって手術の妥当性、有効性を慎重に検討し、腎がんに対して「ダ・ヴィンチ S」を用いた切除手術(腹腔鏡下腎部分切除術)を開始することになりました。

 

当院の泌尿器科には、前立腺がんの手術におけるロボット操作の豊富な経験と技術の習熟があり、これを基に腎がんに対しても良好な結果が期待できると考えています。

腎がん手術の安全性とリスク

これまで腎がんに対する標準的な手術としては、腎臓をすべて摘出する手術(腎全摘除術)が行われていました。しかし、がんを完全に治すという意味では満足できる成績が得られる場合が多いものの、術後、長期にわたっての腎臓の機能が保持できるかといえば必ずしも良好ではなく、将来腎臓の機能が低下し余命が短くなる可能性が無視できないことが指摘されています。このため比較的小さな(4cm以下:T1a)腎がんについては、腎臓の温存を目指した手術(腎部分切除術)を行うことがガイドラインでも推奨されています。

 

腎臓をすべて摘出する場合(腎全摘除術)には、ほとんどの症例で腹腔鏡手術よって体にあまり負担をかけずに行うことができますが、部分的な切除手術(腎部分切除術)については術中や術後の出血や尿が漏れるリスク、手術の時間的制約(※1)などの問題があり、腹腔鏡手術は非常に難易度が高いと考えられています。また、腹腔鏡の先端の器具(鉗子)の問題で腎臓の切開や縫合を行うことがきわめて困難な場合があります(※2)。こういった症例は手術時間が長くなる、出血量が多くなる、阻血時間(※3)が長引いて腎臓の機能に悪影響を残す結果になるなどの心配があり、手術を安全に行ううえで大きな課題となっていました。


 

  • ※1 がんができた腎臓を部分切除する場合は、腎臓の動脈の血流を止めてすばやく切除、縫合をしなければならない(30分以内が目標)。
  • ※2 腎臓の切除や縫合は、腹腔鏡の先端についた器具(鉗子)で行う。通常、この器具には関節がついてないため、より繊細な技術が要求される症例に対しては、切除や縫合が難しくなる。
  • ※3 腎臓の血流を止めて、切除・縫合を行い、血流を再開させるまでの時間を阻血時間という。特に体温の状態での阻血は、細胞の代謝が行われているにもかかわらず、酸素や栄養が補給されないため、臓器の細胞が死滅する危険がある。

 


 

ロボットを用いた手術で安全面での課題を解消

このような症例に対して、ロボットを用いて腹腔鏡下で腎臓の部分切除を行うことによって、手術の操作性が格段に良くなることが期待されます。つまり、❶10倍に拡大した視野で立体的な3D映像が得られる、❷鉗子の先端に関節があることで切開、縫合を繊細かつ確実に行うことが可能、❸手ぶれのまったくない鉗子の動きは血管の処理を安全に行うことが可能、といった従来の腹腔鏡手術とは次元のまったく異なる手術が可能となると考えられます。


 

ロボットは4本のアームを持っており、1本は内視鏡カメラ、ほかの3本には種々の鉗子が装着されます。鉗子には関節があり、人間の手指のように動かすことができるため、これまでの腹腔鏡手術では不可能だった複雑な手術操作が可能です。


医師は操作台に座って、内視鏡カメラが映し出した3D画像を見ながら、アームに取り付けられた鉗子を手元のコントローラーで遠隔操作します。3D画像を拡大することで臓器の状態が細部まで把握できます。


ロボット手術の特徴は、より繊細で、体に負担のかからない手術が可能なところ。術中の出血量や術後の痛みも少なく、日常生活への復帰も早まります。 

平川和志 ひらかわ かずし


1984年、北海道大学医学部卒業。北海道大学医学部附属病院、国立札幌病院などの勤務を経て、97年より恵佑会札幌病院泌尿器科部長として勤務。2010年に院長に就任。泌尿器科指導医・専門医。