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vol.29 がん専門病院の形成外科

  • 皆川知広 恵佑会札幌病院 形成外科部長


形成外科の一般的な診療では、体の表面の異常、例えば皮膚のできもの(脂肪腫や粉瘤など)を切除したり、ケガ(外傷ややけどなど)による障害を手術によって治すことが多いのですが、当院はがんの専門病院であるため、がん治療に伴う生活の質(QOL=クオリティ・オブ・ライフ)の低下を改善することを目的とした形成・再建手術に力点を置いています。
当院の形成外科で行っている代表的な4種類の治療を簡単にご説明します。


子宮・卵巣がん、乳がんの手術後の腕脚のむくみを改善する手術

子宮がんや卵巣がんなどの手術でリンパ節を取り除いた場合(リンパ節郭清(かくせい)術)、脚から骨盤を経由するリンバ液の流れが悪くなり、脚がむくむことがあります。北海道出身の女優さんに起こり、以前話題になりました。
また、乳がんの手術で腋の下のリンパ節を取り除くと、腕からのリンバ液がせき止められ、腕にむくみが生じます。腕や脚の関節が動かしにくい、痛みや疲労感といった症状も現れ、高熱(ほうかしき炎)で救急搬送されることもあります。

当院の治療では、むくみのある腕や脚のリンパ管と、その近くの静脈をつなげてリンパ液の逃げ道をつくる手術を行います(リンパ管静脈吻合(ふんごう)術)。この手術は0.5mm前後の太さの脈管を扱うため、手術用顕微鏡を用います。顕微鏡下の手術はマイクロサージャリーといわれます。
当院ではより微細なスーパーマイクロサージャリーを導入し、北海道内では最も手術数が多く、実績をあげています。

乳がんで切除した乳房の再建術

乳がんで切除した乳房の再建には、シリコンなどの人工物を使う人工物再建と、全身麻酔のもと自分の体の組織を使う自家組織再建の2種類があります。
自家組織再建では、移植する組織の第ー選択肢は下腹部です。
これまでの一般的な手術は、脂肪と一緒に筋肉(腹直筋)も移植してしまうため、腹圧が弱まりお腹がふくらんでしまう弊害もありました。当院ではこれを解消するため腹直筋を下腹部に温存する手術を実施しています。
マイクロサージャリーによる高度な技術が必要で、限られた病院でしか行っていません。

小腸で食道を代用する食道がんの手術

食道を切除する場合、胃を持ち上げて食道の代わりにしますが、胃を切除した方など胃を使えない患者さんには小腸(または大腸)で代用します。
手術では小腸の血管と胸の血管をつなぐこと(遊離消化管移植)が必要で、マイクロサージャリーを応用した、難易度の高い手術になります。
この手術に慣れていない医療機関ですと、手術の適用からはずされ、放射線治療などの別の治療法だけを提示される可能性があります。当院は食道がんの手術件数が全国で最も多い病院ですが、これまで培ってきたスキルとチームカのもと、この手術により患者さんのがんの根治、物を食べる機能の維持を目指しています。

頭頸部がんの手術で欠損した部位の再建

一昨年、女性歌手が舌がんになり、移植手術を受けたことが報道され、ご記憶の方も多いと思います。
頭頸部がんは鼻や口、のど、あごなどにできるがんです。舌がんなどができて、口の中の組織を切除する場合、話す、食べる、呼吸などの機能におよぶ障害が最小限となるように、ご自身の体の組織をマイクロサージャリーで移植(遊離皮弁移植)します。

恵佑会ならではの取り組み

当院の形成外科ではマイクロサージャリー、スーバーマイクロサージャリーを積極的に用いて四肢リンバ浮腫に対するリンバ管静脈吻合 (ふんごう)術など精密な手術を行っています。
乳房再建では、全国的に第一人者である蘇春堂形成外科(札幌市中央区)の矢島和宜副院長と連携し、腹直筋を温存する、難易度の高い手術を多用し、成果を上げています。
食道がんの遊離消化管移植に対しては食道がん治療のトップランナーとして蓄積してきたノウハウや経験値はもとより、マイクロサージャリーによる手術の安定度、外科と形成外科の連携による高いチームカで対応しています。
頭頸部がんの手術にあたっては、がんの切除は頭頸部外科や歯科口腔外科が担当し、再建は形成外科が行い、充実したチーム医療を展開しています。
がん治療によって生じたQOL(生活の質)の低下をできるだけ緩和することが、がん専門病院における形成外科の使命と考えています。

恵佑会札幌病院泌尿器科の4名の医師。左より、佐藤泰之医師、谷口明久泌尿器科部長、平川和志恵佑会札幌病院院長、小林智治医師

皆川知広 みながわ  ともひろ


1971年、札幌市生まれ。97年、北海道大学医学部卒業、同大学形成外科入局。市立札幌病院、旭川厚生病院などを経て、2019年より恵佑会札幌病院形成外科に勤務。日本形成外科学会専門医、同学会再建・マイクロサージャリー分野指導医。